3年前のある日、税務署から一本の電話がかかってきた。
「○○さんのお名前でよろしいでしょうか。確定申告についてお伺いしたいことがあるのですが——」
携帯を握る手が、じわりと汗ばんだのを今でも覚えている。
ストック・オプション。嬉しい誤算、そして致命的な思い込み
あれは数年前のことだ。
会社のストック・オプション制度を利用して、株の売却益を得た。給与以外の収入など縁がないと思っていた私にとって、それは文字通り”興奮するほど嬉しい”出来事だった。
金額は、雑所得として確定申告が必要な20万円のラインをギリギリ超えるくらい。 小さいと言えば小さい。でも、サラリーマン一筋の自分には十分すぎる「臨時ボーナス」だった。
ただ——私はそこで、ある致命的な思い込みをしていた。
「証券口座を作れば、税金は勝手に引かれているはずだ」
通常、証券会社で口座を開設する際には「特定口座(源泉徴収あり)」と「一般口座」の2種類から選択できる。特定口座(源泉徴収あり)であれば、売却益に対して税金が自動的に天引きされ、確定申告が不要になる——給与の年末調整と似た仕組みだ。
しかしストック・オプションの売却に使われる口座は、一般口座であることが多い。
私はその違いを知らなかった。だから、何もしなかった。
ストック・オプションとは何か、簡単に整理しておく
念のため、ストック・オプションの基本を整理しておきたい。
ストック・オプションとは、会社が従業員に対して「あらかじめ決められた価格で自社株を購入できる権利」を付与する制度だ。株価が上がれば、その差額が利益になる。
この売却益の税務上の扱いは、付与された条件によって異なる。
- 税制適格ストック・オプション:一定の要件を満たす場合、権利行使時点では課税されず、売却時に「譲渡所得」として申告分離課税(約20%)の対象になる
- 税制非適格ストック・オプション:権利行使した時点で「給与所得」または「雑所得」として課税される
いずれのケースでも、一般口座での取引は自分で確定申告をしなければならない。 税務署が勝手に計算して請求してくれるわけではない——が、税務署はちゃんと把握している。
3年後の「請求書」
電話から数日後、税務署から書類が届いた。
内容は明快だった。
申告すべき所得の申告漏れに対する、納税・追徴課税の請求である。
書類には、私が申告すべきだった所得と税額が丁寧に計算されていた。そしてそこには、元の所得税だけでなく、以下の金額が積み上がっていた。
① 延滞税 納付期限(確定申告期限の翌日)から実際の納付日までの期間に応じて発生する。滞納が長くなればなるほど、雪だるま式に増えていく。
② 無申告加算税(15%) 申告をしなかったことに対するペナルティ。本来納めるべき所得税に対して、15%が上乗せされる。 (自主的に申告した場合は5%に軽減されるが、税務署から指摘を受けた後では軽減されない)
そして書類の最後には、こんな一文が添えられていた。
「本通知に対して異議申し立てをすることは可能ですが、今回の事案は特例・軽減措置の対象には該当しません」
支払う以外に、実質的な選択肢はなかった。
申告しないと、どんなペナルティが待っているか
改めて整理すると、確定申告を怠った場合のリスクはこうなる。
| ペナルティの種類 | 内容 |
|---|---|
| 延滞税 | 納付期限翌日〜完納日まで日割りで加算(年利2〜14%程度) |
| 無申告加算税 | 本税の15%(税務署指摘後)、自主申告なら5% |
| 重加算税 | 意図的な隠蔽と判断された場合は40%(悪質なケース) |
私のケースは「悪意なき無申告」だったため、重加算税は免れた。 しかし延滞税+無申告加算税だけでも、かなりの上乗せになったのは事実だ。
「知らなかった」は、残念ながら免除の理由にならない。
サラリーマンが確定申告を必要とするケース
私の失敗を反面教師にして、以下のケースに心当たりがある人は、ぜひ今年の3月15日までに確認してほしい。
申告が「必要」なケース(主なもの)
- 給与以外の所得(副業・フリーランス・ストック・オプション等)が年間20万円を超える場合
- 一般口座で株の売却益が出た場合
- 2カ所以上から給与を受け取っている場合
申告すると「得する」ケース(還付申告)
- ふるさと納税をワンストップ特例以外で行った場合
- 医療費控除(年間10万円超の医療費がある場合)
- 住宅ローン控除の初年度
- 年の途中で退職して年末調整を受けていない場合
確定申告は「怖いもの」ではない。きちんと申告すれば、むしろお金が戻ってくるケースも多い。怖いのは、申告すべきなのに、しないことだ。
おわりに——「知らなかった」で済まない話
あの税務署からの電話は、今でも時々思い出す。
知識がなかった。調べなかった。「なんとなく大丈夫だろう」と思っていた。
でも税務署は、証券会社から提出される支払調書などをもとに、かなりの精度で把握している。3年という時効ギリギリのタイミングで来た通知は、「逃げ切れる」などという甘い考えが通じない世界だということを、身をもって教えてくれた。
確定申告の期限は、毎年3月15日。
給与以外に収入があった年、ふるさと納税や医療費控除などのイベントがあった年は、ぜひ早めに確認してほしい。
面倒くさいと思う気持ちはわかる。でも、後回しにした代償は、想像以上に大きくなることがある。
私がそれを証明している。
(確定申告は国税庁の公式サイト「e-Tax」からオンラインで申請できます。不明な点は最寄りの税務署や税理士に相談することをおすすめします)

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